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SHUMPEI KISHI
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"Do What You Need." — AIエージェントと、日本法人立ち上げの記憶

先日、Drupalでデモサイトを構築しようとして、AIエージェントに「Do what you need」と指示しました。

必要なことをやってくれ。自分で考えて、自分で判断して、完成させてくれ。

結果は、うまくいきませんでした。

指示が大きすぎたのです。何をどの順番でやるべきか、AIにはわからなかった。少しずつタスクを切り出して、一つずつこなすようにしたら、ようやく形になりました。

その試行錯誤の中で、ふと思い出したことがあります。

自分も、まったく同じ経験をしていたな、と。


2019年、アクイアジャパンの立ち上げメンバーとして入社しました。当時、日本でAcquiaの製品を使っている企業はわずか2社。今では50社以上に使っていただいています。

入社してすぐ、上司に言われた言葉があります。

「Do what you need.」

それが唯一の指示でした。基本的にやったことの報告だけ。困ったことがあれば人を繋いでくれる。でも、何をやるかは自分で決める。

正直に言えば、何をやればいいのか、わかりませんでした。

それまでの自分はエンジニアです。Presalesエンジニアという肩書きをもらったものの、営業のイロハも知らない。見積もりの作り方もわからない。お客様の前で何を話せばいいかもわからない。まさに「何がわからないのかわからない」状態でした。


そんな中で、一緒に走ってくれたのが、同じ立ち上げメンバーのAE(Account Executive)でした。自分にとっては、いわば師匠のような存在です。

営業とは何か。お客様に信頼してもらうとはどういうことか。相手の言葉で、わかりやすく伝えるとはどういうことか。全部、隣で見せてもらいながら学びました。一介のエンジニアだった自分をここまで引き上げてくれたのは、この方の存在が本当に大きいです。

夜中に本社へ問い合わせたことも何度もあります。時差が応えました。でも、スピード感が何よりも大事だった。わからないことは調べる。知らないことは聞く。新しく知ったことはすぐにシェアする。グローバルのPresalesメンバーにも助けられました。入社してすぐにボストンの本社で直接会えたことも、大きかったと思います。

資料のローカライズも、単なる翻訳ではありませんでした。日本のお客様に合わせて、1ページで全体像がわかるように作り直す。デモも、海外のロールプレイやストーリーテリングをそのまま持ってきても伝わらない。日本の事例やユースケースに落とし込んで、「海外向けの製品でしょ?」という印象を払拭しなければならなかった。ないものは一から作りました。ちょっとした図を書くような手間を惜しまないこと。細部にこだわること。そういう小さな積み重ねが、信頼につながっていったのだと思います。


振り返ると、うまくいったことには共通点がありました。

自分のスコープにとらわれず、なんでもやったこと。イベントの受付だってやりました。チームの誰もが「自分の仕事ではない」とは決して言わなかった。みんなでワイワイ冗談を言いながら、目的に向かって前に進む。そういうカルチャーが、あの小さなチームにはありました。

歴代のマネージャー、後から加わった初期メンバーの同僚たち、当時のGM。みんなノリがよくて、お互いに助け合える仲間でした。

自分の力で成し遂げたことなんて、一つもありません。周りの人たちに恵まれただけです。感謝しかありません。


AIエージェントに「Do what you need」と言って、うまくいかなかった話に戻ります。

大きな指示を小さなタスクに分解して、一つずつ片付けていく。AIエージェントで学んだそのやり方は、6年前の自分がすでにやっていたことでした。

もし今、もう一度あの立ち上げ期をやるとしたら、AIをフル活用するでしょう。作業のスピードは当時とは比べものにならないはずです。

でも、あの頃の自分を前に進めてくれたのは、スピードではありませんでした。

「Do what you need.」と言って信じてくれた上司。隣で営業の基本を見せてくれたAE。夜中の問い合わせに答えてくれたグローバルの仲間たち。

AIは優秀なツールです。でも、信じてくれる人の存在は、ツールでは代替できません。

あの頃に関わってくれたすべての人に、改めて感謝を伝えたいと思います。


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